解決事例

2025/02/08解決事例

(解決事例)離婚(調停)

N総合法律事務所、弁護士の首藤です。

今回もご依頼者様の了承の下、お受けした事件について掲載いたします。内容については、少しぼかします。

ご依頼者様は、ある日、配偶者が子を連れて出て行ってしまい、その後、間もなく配偶者から離婚調停の申立てを受け、ご相談にいらっしゃいました。

男性ということで不利でもありましたが、離婚それ自体、親権、婚姻費用、養育費、財産分与、面会交流、不貞慰謝料など話し合うべき事柄はたくさんありました。特に、男性がこだわっていたのは親権獲得で、当初は、親権獲得できなければ離婚に応じないという考えを持っていました。

まず、離婚自体はご依頼者様も反対していなかったため、離婚前の子と配偶者の生活費である婚姻費用に関して適切な主張を行い、数回の期日の後、調停を成立させました。

問題はここからでした。婚姻費用は、離婚ができなければ子と配偶者の生活費という名目であるため、ずっと支払い続ける必要があります。そして、金額も大きいので、離婚するまでに話が長引けば、それだけ婚姻費用の負担が増えていくことになります。こちら側ができることとしては、相手配偶者の申立てのとおり、離婚に応じて速やかに婚姻費用の総額を確定させ、ご依頼者様に延々と負担させることを防ぐことでした。婚姻費用に関して調停が成立すれば、あとは子どもの生活費である養育費が話し合いの中心になります。

ご依頼者様の意向を踏まえ、親権を取得されてしまうのであれば、養育費については低額に抑えるべく、養育費算定表よりも低い金額を提案することにしました。この提案も単にケチだからというわけではなく、先行する試行的面会交流において、子の衣類の購入や食事を提供しており、経済的負担をこちら側がある程度していること、子の養育のために養育費が使われないのではないかと危惧する事情が実際に確認できたこと、なによりも親権を得ることができないことへの抗議の姿勢を示す意味合いもありました。

ところが、配偶者は、こちらの養育費の提案を受け、調停を取下げまたは不成立にすると調停委員を通じて打診してきたのです。このような態度は、裁判であれば矛盾挙動、禁反言(信義則違反)ともいえる挙動ですが、調停であれば戦略の一つとして考えられるところでした。先行して成立している婚姻費用の負担額は養育費の額よりも大きく、離婚が成立しない限りは支払い続ける必要があります。この多額の経済的負担に応じてでも相手の取下げという形での事実上の養育費増額の要求を撥ねつけるか、一方で、そうすれば次回の調停期日はないかもしれない。ここでは決断が必要でした。

ご依頼者様も当初は激怒し、親権を取得されてしまい、養育費もこちらの希望額よりも多く払わなければならないという一方的に不利な条件での合意に抵抗を示しました。しかし、冷静に考えると、配偶者がDVや育児放棄をしている明確な証拠はなく、裁判で親権を争っても敗訴する可能性が高いこと、婚姻費用の支払総額を早期に確定することは金銭的なメリットが大きいこと、それ以外の争点については、養育費に争点を絞り込むことにより、こちら側に有利な条件で合意することが期待できることなどのメリットがありました。

元々、離婚において、防戦一方の立場に置かれる男性の考えるべきことは、積極的に配偶者に対して権利を得ることを目指すのではなく、自身が公平を損なうほどの不利益を甘受させないよう防御に徹するという姿勢です。前述のとおり、養育費の多少の増額をはねつけた後に待つものは、著しい不利益しかありませんでした。この考えに基づき、ご依頼者様と話し合いをしました。ご依頼者様も賢明な方であり、私の話に耳を傾け、最終的には納得していただけました。そして、養育費の増額要求に応じつつも、配偶者の希望額よりも若干減額すること、離婚は成立させること、親権は配偶者に与えること、財産分与をしないこと、不貞慰謝料請求をしないこと、面会交流を具体的条件の下に実施するなどの合意に至り、調停成立となりました。

ここで、冷静さを失い、怒りのままに調停不成立にすることは、泥船に乗ることと同義でした。離婚調停経験者の中には、相手の主張に納得できずにより不利な立場に追い込まれてしまう方もいらっしゃると思います。本当にギリギリの判断だったと思います。

離婚は、配偶者が子を連れて別居してしまった場合、配偶者から子への継続的なDVや育児放棄がない場合、親権を得ることはとても難しいです。不貞行為を行っていても親権が女性配偶者へ与えられるケースも少なくありません。今回もベストは尽くせたと自負しています。

 

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