2025/10/03解決事例
(解決事例)発信者情報開示仮処分・開示命令(同定可能性が問題になった事案)
N総合法律事務所、弁護士の首藤です。ご依頼者様からご了承をいただきましたので、今回は開示請求について掲載いたします。
ご依頼者様はキャラクターデザインを仕事の一部としていました。X(旧Twitter)においても、イラストが引用されたり話題になる等しており、特定のオリジナルキャラクターに関して創作活動を行っていました。
ある日、X上において、キャラクターのイラストについて引用され、ご依頼者様を中傷するかのようなポスト(旧ツイート)がなされました。あまりにもその内容に悪意があったので、開示請求をご依頼されました。発信者情報開示請求については、令和3年度改正により、制度が変わりました。これまでは開示仮処分、開示訴訟という手順が一般的でしたが、提供命令、開示命令などの制度が新設されたため、新制度を一部利用することにしました。
まず、IPアドレスを開示してもらうために、Xに対して開示仮処分命令の発令を裁判所に求めました。以前は無担保上申をして権利の濫用ではないことを裁判所に説明し、X社も開示仮処分の申し立てに伴い担保金の供託を求めてはいなかったのですが、最近は担保金の供託を求めているようです。法務局へ行き、担保金の供託をしました。審尋期日が指定され、X社には大手法律事務所の代理人が就き、色々と反論がされましたが、裁判官から仮処分を認めるとの判断がされ、仮処分命令が発令されました。
大手法律事務所の代理人からIPアドレスの開示がされ、IPアドレスからプロバイダを割り出すと、大手通信事業者と判明したため、今度は同事業者に対し、開示命令の発令申立てをしました。並行して、IPアドレスは開示されたので、仮処分の取下げをし、供託金の還付を受けに行きました。このIPアドレス開示に関しては、命令が出ているにもかかわらず、1週間近く開示がなかったことから、X社に対して間接強制するよう裁判所目黒執行センターに申立てをするなどして、開示を促したということもありました。開示がされないと、プロバイダのログ保存期間経過により通信履歴が失われ、特定できなくなるからです。そこで、さらに予防策として、直接、大手通信事業者にログ保存要望書を出して開示命令申立前に任意でログを保存してもらいました。
開示命令の手続では、大手通信事業者の代理人からは、そもそも、問題のポストは、イラストを引用した発言ではあるものの、イラストの作者に向けられたものではなく、同定可能性がないと反論されました。同定可能性というのは、平たく言えば、特定の人物に対して誹謗中傷が向けられたものかどうかということです。確かにイラストの引用と誹謗中傷はされていましたが、著作者の名前を明示してはいなかったので、反論としては成り立っているように見えました。
しかしながら、中傷内容は、通常一般人の読み方からすれば、イラストの批判をしているというよりも、むしろイラストの批判を通じて著作者の人格批判をしていると読み取れるものであったため、著作者の名称が出ていなくても、著作者に向けられた誹謗中傷であるとして、社会通念上許容範囲を超えた侮辱行為と認定されました。命令発令後、最終的には、プロバイダである大手通信事業者から、投稿した人物の氏名や住所、電話番号などが開示されました。
開示請求は町の弁護士、いわゆる街弁にはあまり相談や依頼が来ることは多くないのですが、イラストの引用&中傷というポストでも、両者を合わせてみれば全体として作者に対する直接の誹謗中傷になりうるということが裁判を通じて確認できたので私自身新たな学びとなりました。
開示請求は投稿者を特定できないこともありうるので、依頼される際には、弁護士の意見も聞きつつ、慎重に検討されるとよいと思います。