2025/12/02解決事例
(解決事例)時効援用(430万円減額した事例)
N総合法律事務所、弁護士の首藤です。今回も一つ終了した事件があり、ご依頼者様の承諾の下に事案を紹介いたします。
ご依頼者様は、10年近く借金を放置していました。元々の借金は約100万円でした。ところが、あまりにも長期間放置していたため、私のところへご相談にいらしたときには遅延損害金が膨れ上がり530万円になっていました。ひとまず、時効援用の依頼を受け、内容証明郵便で援用の意思表示をしました。
ところが、先方からは時効は完成していないとの反論が来ました。支払督促、差し押さえにより時効は中断しており(法改正により、時効の更新という名称に代わっております。)全額を支払えという回答をしてきたのです。
ここで、一つの法律上の論点が出てきました。先方は、差し押さえをある時期に取り下げており、その取り下げにより、時効中断の効力は生じなかったことになるのではないかというものです。
差し押さえが効力を生じなければ時効は完成、取り下げても時効中断の効力は失われないとされるのであれば、時効は完成しない。お互いがそれぞれの主張を支える根拠としていたのは地方裁判所の裁判例と高等裁判所の裁判例です。この論点について、最高裁判所の判決はありません。
時効中断効が生じるとする地方裁判所の裁判例は、時効制度の趣旨が権利の上に眠る者を保護しないというものである以上、差し押さえ自体を行っていれば、後に取り下げたとしても、取り下げた事情が転付命令費用を下回る程度の被差押債権であったり、そもそも差押対象債権が存在しなかったという場合には、やむを得ない事情による取下げであり、権利行使の意思は消えず、したがって時効中断効も維持されるというものです。
これに対して、高裁判例は、取下げをした以上は、客観的に権利行使の意思が失われたものと考えられるので、時効中断効も失われ、時効期間満了により時効は完成するという内容です。
膠着状態が続きました。時効が完成しているとして最高裁判所まで争うのか、相手の主張を受け入れて支払うのかでご依頼者様と悩みました。そうこうしているうちに、先方から連絡があり、100万円を支払ってもらえれば、残りの債権は免除するという提案が来ました。元金和解に近い内容です。そこで、ご依頼者様と協議し、先方の提案を受け入れることにしました。
結果的に430万円減額できましたが、最高裁判所まで争う可能性もあった事案のご紹介でした。


